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変顔のレパートリーが少ない

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半年ぶりに、甥っ子2人に会いに行った。

小さな顔に、少し大きなサイズの子ども用マスクをつけ、迎えに来てくれた車の後部座席に、2人はちょこんと乗っていた。

駅の改札を出て、ロータリーに停めた車の運転席から見えたのは義弟の笑顔。

てっきり1人で迎えに来てくれたと思っていたから、甥っ子の顔を見た瞬間、テンションの調整が追いつかなくて、「……おぉー!ひさしぶり!」と少し小声で言った。

相手が久しぶりに会う人だと、はっきり目を合わせるとなんだか照れくさい気持ちがうまれる。

相手が家族や親戚、はたまた子どもでさえ、わたしの場合はそういう癖があるらしい。

妹が住む家に着くと、落ち着く間もなく遊び相手となり、なんやかんや呼ばれる。

しばらくは「自分の子どもがいないから、うまい遊び方がわからないな」とダメ出ししそうになるけれど、そのうちそんなことは全く気にならなくなる。

そう、別に気に入られようと頑張らなくても受け入れてくれるのだ。

それは彼らが優しいから、そして素直だから。目が合って笑うたびにわたしの目は細くなる。

「世界遺産すごろく」で戦い、僅差で負ける。いつのまにかひらがなもカタカナも読めるようになった上の甥っ子が「タスマニアデビル」を「タスマニアジビル」と読み間違う。その度になんだかジビエを思い出しておなかがなりそうになる。

下の甥っ子は音楽が好きなようで、スピーカーから流れるレキシをバックにオリジナルダンスを披露する。ピュアな笑顔を振りまきながら踊る姿に「この子はダンサーになるかもしれないな」と気が早い妄想を膨らませる。

その翌日、広い公園へ向かう車中で変顔対決が始まった。

上の甥っ子 vs わたし。

隣に座っていた夫が両方の顔を掌で隠し、交互に対決させる。何度やっても甥っ子は飽きずに、舌を最大限に伸ばして変顔をする。

そしてわたしの出番。思いつく限りの変顔を試したところ、なんだか2パターンくらいしかやれなかった。

口をすぼませたひょっとこスタイル。それに、あっかんべーの顔。それ以上、変顔のレパートリーが思い浮かばない。

まあ、いい大人なので変顔対決をする機会もないから、たいして思い浮かばないのは当然なのだけど。(もちろん決して子ども相手に変顔をするのが恥ずかしいからではない)

なんというか、インプットと想像力が足りない。変なところで真面目で頭がカタい部分が、こんなところにも現れている気がした。できることの少なさというか。

表現力の乏しさや自分の思考の狭さに、なんだか悔しくなる。それは特に今年ずっと悩んで苦しんできたことと通じるものを感じたからだ。

そんな苦々しい思いにうっすら気づきつつ、なんど同じ顔をしてもウケてくれる上の甥っ子。下の甥っ子の顔を覗くと、対決しているふたりの顔まねをしながら、クリームパンみたいな手を叩いて大ウケしている。

あ、なんだ。

そのままでいいのか。

無理せずでも、本気で挑む姿勢でさえいれば。

落ち込むのが趣味で、人と比べる癖から永遠に逃れられなくてもがいているけれど、そうやってがんじがらめに考えれば考えるほど、子どもたちのピュアな反応に救われる気持ちになれる。

 

こんな時間は、きっといつまでも続かない。

子どもたちはこんな小さな出来事の数々をすぐに忘れてしまうだろう。

その切なさに胸がぎゅっとしつつも、わたしはそんな愛おしい思い出をいつまでも大事にしたいと思う。

とりあえず、次に彼らに会える日まで変顔百面相チャレンジできるよう、ストイックに鍛えておきたい。

 

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