• 総武・中央線

500円で得られる平穏

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「フジロックにでも行くんですか?」

駅へ向かう途中、いつものカフェでそう呼び止められた。

夏ほど自分の格好に無頓着になる季節はなく、ここ数年はビッグシルエットのTシャツばかり着ているからか、指摘されるまで自分が今日どんな服装だったのか思い出せず慌てる。

そう言われてみると、フェス仕様だ。

Colombiaのハットに、黒地に蛍光色の猫と文字がプリントされた銭湯Tシャツにカラーパンツ、そしてTevaのサンダル。フェス、どんとこい。行ったことないけれど。

片手にミルクブリューを持って、今にも雨が降りそうな空の下、駅までの道をゆく。

途中、行きたかったレストランでカレーを食べ、いざ新宿へ。

新宿駅へ着き、東南口からゆるやかな長い坂を下る。そういえば、この道を通学路にしてデザインスクールに通っていたこともあったな。あの経験、今に生かされているんだろうか。

ふわふわと考え事をしていたら、H&Mのあったビルはいつの間にかIKEAに変わり、相も変わらず大賑わいだった。

その脇をするりと通り抜け、目的地へ向かう。500円の入園料を払い、園内へ。

5年、いや10年ぶりくらいかもしれない。

遠出をする体力も気力もなく、それでも緑に囲まれたかった。できれば山や森のような鬱蒼とした道を歩きたかったけれど、それにはそこそこの装備とパワーが要る。あと、時間も。

 

そこで新宿御苑へ向かった。

来るたびにぐるっと一周してみようと思うのだけれど、いまだに実現したことがなく、温室を見て芝生で足を伸ばせれば満足してしまう。

入場口から真っ先に温室へ向かう。くじらをかたどったようなガラスドーム。

入口へ向かうまで、ゆるやかな坂になっているので、まるで波間にくじらの背中が見えているかのようだ。工藤直子の『ともだちは海のにおい』で長新太が描いたような、くじら。

 

くじらのドームへ向かおうとすると、行手を阻むかのようにぐるぐると旋回する小鳥がいた。

目の前をびゅん!と飛び立ったかと思うと、あたりを乱降下したり上昇を繰り返し、ついにはアスファルトの地面に降り立った。

「きっと逃げるだろうな」と思いながら、おそるおそる体を屈めて近づく。伝わらないだろうけれど、「こんにちは、どうしたの?」と小声で話しかけながら。

小鳥にもパーソナルスペースはあるのだろうか。

すずめはヒューマンスペースがだいぶ広い気がしていて、ちょっとでも近づくそぶりを見せると飛び立ってしまうが、目の前にいる小鳥はどうも逃げない。野良猫でも逃げる距離まで詰めても逃げない。

逃げるだろうと想定した近さでも飛び立たないので、なんとなしに見つめ合う形になった。

この後どうすればいいんだろう。ごはんをあげるのはダメだろうし。そもそもなにも持っていない。

「ごはんをもらえるのを待っていますよ」とまっすぐな目線でメッセージを送っている気がしてならないが、こちらは期待に沿えない。

 

10秒ほど、見つめあっただろうか。

「この人間は何もくれないタイプか」と諦めがついたかのように飛び去った。飛ぶ姿を見ていたら、ツバメのようだった。

ガラスの温室では、大きなビカクシダが訪問客を出迎えるように背を伸ばしていた。

アボカドは時間帯によってひとつの花が雄花になり、雌花になったりと切り替えをするらしい。人間にもその仕組みがあったら、もろもろ解決するのではないだろうか。問題もそれ以上に増えるだろうけれども。

水辺では蓮の花が咲く。

今年こそは不忍池の蓮を撮りに行こうと思っていたのにすっかり忘れていた。気づくと、植物よりも名前が書かれたプレートに夢中になる自分がいる。「キツネノマゴ科」「ムニンフトモモ」「ソーセージノキ」。名前の語呂や由来が気になって仕方がない。

 

温室を一周し、芝生でサンダルを脱いでひとやすみ。いつかの花見で買った、ちっともお洒落じゃないペラペラのビニールシートを敷く。広げたところでテンションは上がらないけれど、嵩張らないから気にならない。

台風がやってくる直前の、いつ雨が降ってもおかしくないどんよりとした曇り空の下、新宿御苑へ集まる親子やカップルたちは、思い思いの時間を過ごす。

 

ビニールシートで寝そべりながら、その様子をぼんやりと眺める。夏の天気の良い日だったら、暑くてこんな風に過ごせなかっただろう。今日は曇りに感謝だ。

そういえば芝生で昼寝するの好きだったな、地面と一体化するような感覚が。

このまましばらく寝てしまおうかな、と思った瞬間、首すじでこそばゆさを感じ、手で跳ねのけた。

広げたビニールシートを畳み、帰り支度を始める。千駄ヶ谷駅の方面にも出口があると知り、園内を横断するようにして向かう。

今年はいつもの夏より蝉の鳴き声が聞こえない。好きではないし、どちらかといえば天敵とすら思っているものの、さすがにあまりに静かだと彼らの生存が気掛かりだ。でも、ここでは元気に育っているようで一安心した。

芝生を見渡すと、人間は裸足で駆け回ったり、動画を撮ったり、みんなでカードゲームをしたり。

知らない誰かがのびのびと過ごしていて、それでいて幸せそうな姿を垣間見られると、それだけでわたしは心が安らぐ。

ここには平穏がある。

 

 

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新宿御苑の園内フォト

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「チユウキンレン(地湧金蓮)」という、「お金のなる木」みたいなネーミングの植物

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新宿御苑 施設概要

公式サイト:https://fng.or.jp/shinjuku/

 

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