[連載]全日本ZINEファンクラブ 10通目

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※この連載は福岡にある「ブックバーひつじが」店主のシモダヨウヘイさんと好きなZINEをそれぞれ紹介しあうというコンセプトで始めました。毎月25日(シモダさん)・10日(チヒロ)の月2回、それぞれのサイトで往復書簡を公開します。前回のお手紙はこちら

 

ブックバーひつじが シモダさま

こんにちは。前回も素敵なお便りありがとうございました。

回を増すごとに、ZINEカルチャーについての思いをとうとうと語る部分がお互い増えてきましたね!全国各地でZINEのイベントが行われている状況、その土地でしか出会えない素敵なZINEに出会えそうで想像しただけでワクワクしますね。

シモダさんのご想像通り、東京で行われた文学フリマの盛り上がりはすごかったです。

と言っても、わたし自身としてはまだ3回目の参加なのですが、ブースの前を歩くお客さんが途切れないくらいの混雑というか。東京の文学フリマはお祭りのようで楽しい反面、あまりのボリュームに見切れず、ゆっくり吟味するのは確かに難しいなと思います。あれだけ大規模だと偶然知り合いに会ったりできるので、そういった面では楽しいんですけどね。

今後は大きなお祭りとしての文学フリマは続きつつ、すでに東京でもあちこちで開催されているような、もう少し小さなZINEイベントが増えるのかもしれないなと感じています。自分が好きな、ちょうどいい規模感ってありますよね。宮崎でのイベントの話もぜひ今度聞かせてください。

そして、今回も素敵なZINEのご紹介ありがとうございます。1つ目の作品に関しては後述するとして、盛岡の「BOOKNERD」の早坂さんが出られたトークイベントのZINEがとても気になりました。イベントの内容がその日のうちにZINEになるの、新聞みたいですね!

早さではネットニュースが一番ですが、紙の本で伝えることに意味があると思うし、印刷ミスだったりがありつつも、なにより鮮度が落ちないうちに最速で届ける作品というスタンスも魅力的でした。ZINEだからこそできることだし、それはそれで面白いですよね! これは読みたいな。

妖怪のZINEも表紙のデザインがポップで素敵! 「妖怪」と聞くとちょっと薄暗くて地味なイメージがあるのですが、デザインの力が効いているのが印象的です。こういうマニアックなテーマをカジュアルに見せてくれるデザインってほんとに素晴らしいなと思っていて。今まで興味のなかった人が手に取るきっかけになりますしね。

そして取材から一冊のZINEにまとめ上げる熱量の高さも、なかなかできることではないので(気力とか費用とかもろもろの大変さを考えると)素晴らしいですね! どこかで実物を拝見したいなと思います。

 

さて、今回の選書は、すでに出版社から本を出版している作家陣が作る、個人的な作品集をテーマにしました!

前回のシモダさんのお手紙にあったように、「有名無名に関わらず面白いZINEを掘り出したいぞ! 私は!」という思いに首を縦にブンブン振りつつ、今回はこのようなテーマにしました。なぜなら、語りたいことがありすぎて。

ではさっそくご紹介しますね。

 

『自由律短歌集 またはその両方が課せられます』せきしろ

ご紹介する3作品は、11月の文学フリマ東京で買った作品たち。今回は友人と隣同士で出店していたものの、基本1人で販売していたのであまりブースを周ることもできず、どうしても買いたいところだけダッシュで行きました。そして狙い撃ちした作品がどれも良すぎで悶えました。

まずはこちら。

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自由律○◯というジャンルを知ったのは、作家のせきしろさんとピースの又吉さんから。

おふたりの著作の本のタイトルが好きすぎて、「こういうタイトルが付けられるようになりますように」と願いながら本の背をずっと見つめていたのが2023年の夏でした。

文フリで出す予定の日記本のタイトルがどうしても決まらなくて、晩夏の間ずっと考えていたのですが出てこず、なにかいいアイデアはないか、と思った時に好きな本のタイトルをずらっと並べて数日眺めていたんですね。

向田邦子から始まり、平松洋子さん、井川直子さん、と並べ、せきしろさん、又吉さんとの共著などの作品の背に書かれたタイトルをしばらくの間、本棚のいちばん目につくところに置いていました。

結果的に、そうして決めたタイトルにせきしろさんっぽさは全然出てきませんでしたが、いつかあんな一瞬で言葉の虜になれるようなタイトルを付けてみたい……!

前置きが長くなりましたが、文フリで出されていた新刊『自由律短歌集 またはその両方が課せられます』、めちゃくちゃ面白かったです。ドトールでミルクレープを食べながらニヤニヤしてしまいました。あぶない。たった1行の言葉でその前後の背景が浮かぶのが本当にすごい。言語化したことがなかった感情が描かれているところも非常に好きです。

また、一緒に販売されていた昭和のカルタを収集したフォトエッセイ集もおもしろくて。独特の薄気味悪さが感じられるカルタばっかり出てくるんです! 見過ごされてる変なものってまだまだたくさんあることに気づかされます。なんか、今より情報も技術もなかった時代だからこそのイマジネーション炸裂みたいなパワーに惹かれるんですよね。

 

『超個人的時間旅行』(タイムトラベル書店)

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ここで禁じ手を。前回シモダさんも紹介されていましたが、わたしも同じ作品の話、語っていいですか……! 

「いいですよ」という声が聞こえた気がするので(幻聴)続けます。

藤岡みなみさんが発行するタイムトラベルをテーマにしたアンソロジー、ほんとに最高でしたね! 前述のせきしろさんやワクサカソウヘイさんも参加していて、「こんなに自分好みの人しかいないZINEってあり得る?」と興奮しました。ありがとうございます藤岡さん。

このまま飾っておきたいくらい表紙のデザインもかわいくて、見ているとどんどん想像が膨らみます。昔観た『オズの魔法使い』や『不思議の国のアリス』の世界を思い浮かべました。さりげなく桃と恐竜も描かれてますね……!

わたし自身、タイムマシンには興味があるけど、タイムトラベルものに特別興味があるほうではないと思ってたんですよね。あ、でも『バック・トゥ・ザ・フューチャー』は好きですよ。

が、しかし。これを読むと、自分がタイムトラベラーだったことに気づきます。たぶん、これを手に取った読者の皆さんもそうでしょう。知らぬ間にタイムトラベラー。

日記書いてわざわざ残してるのも、過去にタイムトラベルしたいからだし、散歩中に昭和のビルを見ている時も確実に「あの頃の昭和」に行ってますし。向田邦子の小説読んでいる時もそう。温かさの中に内包されたドロドロとした昭和の家庭に起こる悲哀そのものに巻き込まれていて、隣の部屋から夫が出てきて昭和の魔法が解けて現実に戻って驚いたりしています。

タイムトラベル好きって気づけてよかった。そういった意味でとても価値のある作品だったなと思います。

 

『園芸グランドスラム』ワクサカソウヘイ

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こちらもすごいZINEなんですよ……! 

ちょうど1年前くらいにワクサカさんの『出セイカツ記』を買って読んでたんです。だいぶハートがやられている時期で。

衣食住の悩みはほぼみんな共通の悩みであり不安であり、そういった不安を真っ向から向き合いつつも、独創性溢れる解決策を編み出し、実際にやってみるという内容で。その発想力と、不安に対してシビアになりすぎず(たとえ現実がハードであろうとも)、悩みそのものと面白おかしく向き合っているところにすごく励まされたんですよね。

11月に出したわたしの日記本、『出セイカツ記』にめちゃくちゃ影響されていると思います。日記という体裁なので面白おかしく書くというスタイルではないのですが、パッションというか。それまでは心の動きとか、ここまで細やかに書く勇気がなかったし、別にこんなこと書いても面白く読んでくれないだろう、と勝手に思っていたことを掘り下げる勇気をもらった作品でした。

前置きが長くなりましたが、そんなワクサカさんが編集されたZINEが『園芸グランドスラム』(どこかで聞いたことのあるネーミング……!)。

装丁が川名潤さんという豪華すぎるデザインと、プリンターでコピーしたかのような印刷の荒さがまたいい味出していて。洋書の植物図鑑のような豪華なデザインとざらっとしたプリントのギャップ!本来のZINEらしさが感じられる印刷が味わい深いんです。

こちらは植物をテーマにした作品なのですが、エッセイやショートショート、短歌に食レポに迷路……? とジャンルもさまざま。30ページちょっとのZINEとは思えない濃さにも驚かされます。

特に刺さったのは「恋花鼎談」。いわゆる恋バナだけが出ているわけではなく、話し手たちの生きざまが見えてくるところが良くて。なにかを専門にして作っている人には結構刺さる話なのではないかなと思いました。(ネタバレしないように語るって難しいですね)

このZINEには植物のタネがついてきて。文フリの時にご本人に「おうち帰ったらすぐ蒔きます!」と意気込んだところ、「春になるまで待ってください」と諭されました。この種を蒔くことによって「園芸グランドスラム」の出場権が得られるようなので、ぜひ花を咲かせたいところです。

 

『園芸グランドスラム』も『超個人的時間旅行』も、そのテーマ設定から巧みな編集力にもとても刺激を受けましたし、今後作りたい理想のZINEだったので取り上げさせていただきました!

 

来年の抱負(仮)

「来年は好きな作家さんに声をかけてZINE作ってみたいな」と、何年も前から考えています。

年々その思いが強まる中で、今回ご紹介したような作品に出会えたことって本当に嬉しくて、勝手に背中を押された気にもなりました。

でも、それこそスケジューリングが大事!そしてやるからにはいいモノが作りたい!

自分ひとりの作品を作るのとはまた違った醍醐味(そしてプレッシャー)がありそうですよね。テーマも朧げながら見えてきたので、もしかしたら作れるのかも? と思いつつ、目の前のやることリストを消化する日々です。

来年の年末にタイムトラベルして完成しているか聞きたいですね。どうか、明るい未来が待っていますように……。

次回のお便りも楽しみにお待ちしています。

かもめと街 チヒロ

 

次回の更新は「ブックバーひつじが」シモダさんです。(12/25公開予定)

 

 

 

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