分かりやすさ、とは。ー「イルカも泳ぐわい。」を読んだ

イルカも泳ぐわい。加納愛子 感想 筑摩書房 Aマッソ エッセイ

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数年前。

とある人に「あの人の文章が好きなんです」という話をしたら、「ああ、あの何言ってるかよくわからない感じの…」と言われたことを強烈に覚えている。

それはモノを紹介する記事だったのだけど、冒頭は一見、関係なさそうな話から始まる。読み進めると冒頭とリンクして、ただのレビューよりも腑に落ちるのが素晴らしいな、と思っていた。

機能だけを事細かに分かりやすく説明されるよりも、その文章は意識の底の方から「ああ買います」ってポチッと買いたくなっちゃうような。

否定でも肯定でもなく、ただ思ったことを口に出しただけであろう、その人の言葉に、「そうか、あの文章の良さが分からない人もいるのか」と妙に感心したというか、ほぼ初対面なのに、相手の好きなものに対して「よくわからない」と言ってしまえる勇気もすごいな、と驚いたことは今でもたまに思い返す。

それは決して悪いことじゃなくて、人によって「よい文章」っていうのは違うんだなというのを肌で実感した経験で。

プロブロガーとやらに憧れていた頃、「文章は分かりやすく、冒頭に結論を持ってくる」ということを、耳にタコができるほど聞いた。

確かにそれはそう。

だけど、書きすすめるうちに「それって超つまんない!」と心の中で大きな虎が暴れ出した。

それから早2年。

またもや、冒頭が「これからどう展開していくのかわからない」タイプの本に出会った。

 

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お笑いコンビ、Aマッソ加納さんの「イルカも泳ぐわい。」。

先日行ったライブで、Aマッソの漫才を観た。一緒に行った友人が「今日はAマッソも見られる~」と、テキストに起こせば文末に♪がついてそうなテンションに期待が膨らんだ。

小柄な女の子が2人出てきて、楽しそうに雷の話をし出したかと思えば、想像の先を超える恐怖の展開に。これはいったい…。ゾクゾクする違和感で、その日から急激に気になる存在になった。

そして、つい3日前。

ふらっと立ち寄った本屋で「イルカも泳ぐわい。」を手に取った。

なんだこれ。

全然関係ないような話から始まったかと思えば、ぎゅっと最後にまとまったり、はたまた想像し得ないほどぶっ飛んでいたり。一見穏やかそうに見える人の車に乗ったら、意外とギュンギュンにスピード出す感じの人だった時の衝撃のような。

こういうの!こういうの読みたかったんです!

次になにがくるかわからない展開。突然差し込まれる、キレッキレの言葉。(誰かを傷つけている、という意味ではないです)日々の暮らしで見てきた着眼点がおもしろく、全てを語っているわけじゃないのに、うっすらと見えてくる人となり。

ふつうの日々をどんな風に見て過ごしてきたか。ほんの少し差し込まれる、心の機微に胸の奥をぐっと掴まれつつ、気づけば本を握りしめている。

 

誰にでも分かりやすく好かれる文章なんて、どうでもいい。大多数に最速で届けるには必要なテクニックかもしれない。

でも、それはきっと心に残るタイプのものではない。

たったひとりに宛てた手紙のような、そんなパーソナルな文章こそ、誰かの心にずっと残るものだと信じたい。

「イルカも泳ぐわい。」を読んで、ひとしきり笑いながら、そんなことを思った。

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