• エッセイ

本屋で小鳥を飼う

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ピピピピピピピピ。

静寂に包まれた空間に突然、小鳥の鳴き声が鳴り響いた。

買おうか思案し、新書の棚を前に開いた本の冒頭部分を黙読したところ、同じ棚を気にしているおじいさんがそばへ寄ってきた。

オフホワイトのバケットハットに白いポロシャツ、淡いベージュのズボンのおじいさんがポケットに手を入れ、携帯を取り出した。

なんだ、携帯の着信音だったのか。

耳をつんざくような着信音ではなく、小鳥のさえずりなのが心地いい。

スマホに収録されている小鳥の鳴き声は、鳴く前にも一瞬、人間で言ったらどこか息を吸う瞬間のような空気のざわめきが聞こえる。なにかが鳴る知らせが音の鳴る前にも届くようで好きだ。

スマホを手にしたおじいさんを見て、「ああ、静かな本屋の店内でも大声で電話に出ちゃうタイプの人かな」と気がかりだったけれど、「シュポッ」という音でメッセージを送信したことがわかった。

そうしてまた小鳥のさえずりが聞こえ、おじいさんはメッセージを返信する。1度ならまあいいけれど、2度目以降はマナーモードにしてくれたらなと思い、その場を離れた。

 

そういえば、近所に新しくオープンしたラーメン屋へ行った夜のこと。

新しく開店したばかりで、オペレーションが何一つうまくいってないのをおそるおそる観察していた。

カウンターに座っても、食券を預かろうともしないので、ここは自動でキッチンにオーダーが届くのかもしれないとしばらく静観していると、新人らしき女の子が食券を回収しにきた。

新店舗って大変だよな、ルールも決まってないまま、人も少ないままオープンしちゃったりして。本部の人は現場のことなんて分かっていないから、準備が整わなくてもなんとか乗り切ってくれ!なんて無責任な態度だったり。

 

新しい店を任された店長時代のことが頭をよぎる。

いくらトロい対応だったとしても、お客さんから責められることはなかった。初めてはそうやって多目に見てもらえるのだ。

ということで、温かい目で見守りつつお腹を空かせていると、気づけばまるで森林浴に来たかのような心持ちになっている。

耳をすませば、というか、すまさなくても聞こえてくるのは野鳥の鳴き声。それも一羽じゃなく大勢。さらに耳を傾けるとミーン、ミーンと蝉の鳴き声に加えて、ホウ、ホウとフクロウのような声も聞こえる。

耳で感じる森のささやき。

 

森のさえずりBGMは、お客さんが日頃抱えるストレスの浄化と、従業員に対する温かい姿勢を生み出すことに、何役も買っていた。

 

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500円で得られる平穏

 

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