ブックバーひつじが シモダさんへ
こんにちは。2月も10日が過ぎようとしていますが、お元気でしょうか。
わたしのほうは、先日のお便りでも触れていただいていたように、蔵前の古書フローベルグでの展示が無事に終わって気が抜けきっているところです。あの空間にふさわしい展示ができたかは分かりませんが、展示を口実に、ずっと本屋さんにいられたのが最高でした。いつかシモダさんにも見てもらえるよう、またどこかで展示ができるよう頑張らねば!
先日のお手紙を読み、シモダさんの考え方がやはりとても素敵だなと思いました。属性の違いによる分断がどうしても表に出る時期ってありますよね。だからこそ、その人の声が溢れているZINEだったり本などを読むことで、分断されたあちらとこちら側に橋を架けることができる気がして。もちろんZINEじゃなくたっていいんですけど。
そういえばお手紙にありましたが、ZINEとリトルプレスと同人誌の違いってなんでしょうね…。呼び名が違うだけで一緒という解釈でいいような気もするしどうなんだろう。
ずっと気になりつつ調べていないということは、ざっくり言ってしまえば、わたしたちにとっては「いい作品であれば細かいことはどちらでもいい」ってことなのかも……。(違ったらすみません、この辺はそのうち調べたり考えをまとめたいなーとも思っています)
紹介されていた『めでたい』、猫がお寿司を掲げてる姿がなんともシュール&キュートですね!これは読みたい!『たやさない』は手元にあるのですが、細やかなデザインにうっとりしますよね。シモダさんの紹介を読んで、読み返したくなりました。始めるより続ける方が精神的に負荷が大きいなとは常々思っていて、そこにスポットライトを当ててくれるのは、なにかを続けようとする人にとっての励みになりますよね。
『つくづく』は好きで、何冊か持ってます!この雑誌ほどやりたい放題なZINEもあんまりないような。それでいてちゃんとおもしろくて。『つくづく』に出会ってから、「ZINE作りってもっと自由でいいのかもしれない」って思ったんですよね。理想のZINEのひとつでもあります。この号は持ってないのでどこかで探してきます!
それでは、今回の紹介をはじめますね。
『本屋なんか好きじゃなかった』日野剛宏
「〇〇じゃなかった」的なタイトル、なんか好きなんですよね。なんだか翻弄されている感じが伝わってきて。話題になっていた作品なので、きっとシモダさんはご存じな気がするのですが、こういうZINEの在り方もいいなと思った作品のひとつです。
千葉にある「ときわ書房」という本屋の店長さんのエッセイや書評をまとめたものなのですが、どれもとても読み応えがあって。それでいて、ご自身のことをいわゆる読書家ではないとか、本屋の店長を務めることへの葛藤などを正直に綴っていて。
30年書店員を務められている方と自分を同じ土俵に上げるのはおこがましすぎますが、わたしも本は好きなものの「読書家」とは胸を張れないなぁと常々思っていて。大人になるまでそんなに本を読んでこなかったし、王道の日本文学とかも全然読んでないし……、と好きな本はたくさんあるけれど、尻込みしちゃう気持ちがずっと拭えなくて。というか、こんなコンプレックスも必要ないとは思ってはいるんですけど。(この話、永遠に続けられそうなので今回はここでやめます)
その、なんだかモゾモゾした気持ちを共有できる相手が、まさか本屋の店長さんというのも、ちょっと嬉しかったです。以前この連載でも話題に上がりましたが、本屋さんが主体の作品はいくらでも読みたいので、出合えてよかったなぁと思いました。
金田八郎の戦争体験記
日記ブームの火付け役、下北沢の「日記屋 月日」で手に取りました。A4コピー用紙にプリントしたものを中綴じした簡易的な作りなのですが、これは本当に意義のある作品だなと思っていて。
タイトル通り、金田八郎さんという方の戦時中の日記で、もとは身内の方に配布されたものとのこと。それを親族の方がこのような冊子にしたものです。
「支那事変」「硫黄島戦記」の2パートに分かれています。
わたしは、基本的に伝えたいことを直球で出されると受け止める負担が大きくてしんどくなってしまうんですね。だからこの日記も買ってしばらく読めていなかったのですが、(確実に楽しい気分にはなれないので)知っておかねばいけないとは思って。でも、できればできるだけ編集されていない生身の言葉を知りたいなと。
「戦争」という非現実であってほしいことが現実に起こっていた日々のこと。その前線で実際に戦っていた農家出身の男性の手記です。
「暮しの手帖」などで戦時中を振り返る手記のようなものは読んだこともあったのですが、こういった形で読むのはほぼ初めてかもしれません。製作者の方が一切のデザインを加えなかったからこそ手に取るきっかけになったような気もします。それほどに切実さが伺えて。これは「日記屋 月日」が存在したから手に取る機会ができた作品なのではという気がします。
なnD 8
独立系書店のあちこちで見かけて気になっていたZINE(いや、リトルプレス…なのか?)。ずっと「なんでぃー」と心の中で呼んでいたのですが「なんど」が正解でした。
3人の編集者の方が作っている冊子なのですが、これがまたなんと説明していいかわからないんですけど、おもしろいんですよね。
「Q&Aリレー」という企画でさまざまな職業の方が問いに答え、次のバトンを受け取る人へ質問を投げかける形式で進むのですが、どこに向かうのかわからない散歩をしているかのようで。寄稿されている方も盛岡の書店「BOOKNERD」の早坂さんや編集者、書店員、画家などとジャンルレスに飛ぶのも良くて。Instagram形式の日記やミニコラムも充実していて……ってうまく言語化できずにほぼ内容説明になっていますが、さっと読める感じがいいんですよね。
なんか、売りやすさとか伝わりやすさを考えると、分かりやすいコンセプトやデザインが必要だったりするわけですけど、よく分かんないけど面白いものにこそ味わいがあるなとも思っていて。一見なんだか分かりにくいけどおもしろいってすごいことなのでは、と。『なんD』は年に一度出ているようなので、他の号もチェックしてみようと思います。
ーーーーーーー
そうそう、前回のお手紙に触れられていた、展示の在廊中におすすめ本を紹介する試みも、最初はSNSでだけやるつもりだったんです。
でも何度かお会いしている読者さんが来てくれた時に、せっかくならとフローベルグにたまたまあった好きな小説や、ここで知った海外の絵本を紹介してたんですね。そしたら気に入って買ってくださった方がいて。本って接客して買うものというよりは、選んで買うものだと思っていたので、なんだかとても嬉しかったです。束の間の書店員体験、人生の走馬灯に入れたい出来事のひとつになりました。
そう思うとシモダさんは本とお酒を媒介にお客さまと毎日コミュニケーションを取っているわけで、素敵なお仕事だなぁと夢見てしまいました。(もちろん大変なことが山ほどあるとは思いつつ)
この「全日本ZINEファンクラブ」も、ある意味、わたしたちが好きなZINEを紹介する往復書簡の形は取りつつも、見てくださっている方に間接的に薦めているようなものでもあるので、毎回書くのに苦戦しつつ、楽しい限りです。いつもお付き合いありがとうございます。
そして最後の最後になってしまいましたが、ひつじが5周年おめでとうございます!!めでたい!
SNSで見る限りですが、あちこちのZINEのイベントに参加されたり、ますますおもしろい場づくりをされているなぁと勝手に感じております。そのバイタリティを浴びに行きたい……!今年も東京でも福岡でもお会いできたらいいですね。
次のお手紙も楽しみにしております!
かもめと街 チヒロ
次回の更新は「ブックバーひつじが」シモダさんです。(2/25公開予定)
**過去のお手紙**