2年前に作ったZINEを、中野のタコシェに再納品しに行った。
以前納品した分が完売したということで、タコシェに来るお客さんが手に取ってくれたことを想像すると嬉しくなった。
日曜日の中野は、地元の人から中野ブロードウェイを目掛けて歩く人でごった返していて、その混雑をかいくぐるように歩く。
どちらかといえばのろまに見えるわたしだが、日本屈指の観光地・浅草で培った人混みをするりと抜ける術はかなり鍛えられていると思う。
その「すり抜け術」は小学校のころのドッジボール試合でも発揮された。
続々と仲間が敵のボールに当たり離脱してゆく中、最後の1人になって逃げに逃げ、その間に外野から敵にボールをぶつけて復活した仲間が内野に戻ってくるまでのギリギリの状態をつないだ。勝ちたい、というよりもボールをぶつけられるのが嫌だったから、相手の戦略を読み最後まで逃げ切った。
話がずれた。
そんなわけで、メーテルが待ち構える中野ブロードウェイの入口を通り、年代物のエスカレーターに乗って3階へ。
まんだらけのディスプレイを流し見し、「大島優子サイン入りポラ 30000円」などを視界に入れつつ、見上げると天井にはイミテーションの青空が。浅草橋「水新菜館」と似た天井だ。天井を高く見せようという心意気がいい。
はじめて「タコシェ」の名前を聞いたのは、大学のサークルの先輩からだった。そうして初めて訪れたのももう20年くらい前のこと。しょっちゅう通っていたわけではなく、社会人になってからは中野へ来ることもなくなった。
2年前に自主製作で作ったZINEを置かせてもらえる場所を探していて「そういえば、タコシェがあった!」と思い出した。頭をよぎるきっかけは、星野源のエッセイにタコシェの話が出てきたからだったかもしれない。
あの頃のイメージとなんら変わらない雰囲気で……いや、過ぎた年月によって濃さは増しているような気はするけれど、SNS全盛期の今だからこそ、ここに置かれている作品の純度がまぶしく見えた。
操作しようという意図を感じるモノが苦手だ。
クライアントがいてターゲット層がいてコンセプトがあって。取らなければいけない数字があって。そういうところに素晴らしいものが生まれる奇跡だってある。ビジネスとはきっとそういうものだし、そうでなくてはやっていけないのは身に沁みてわかっている。
でも、それでも。
わたしは、カルピスの原液のような、製作者の伝えたい思いがこれでもかというほど込められた、紙の制作物が好きである。
これを伝えたい、わかってくれる人に届けたい。
まるで親友から数年ぶりに届いた近況報告の手紙のように、その人が伝えたいことだけが詰まっている。
イージーに情報発信できるようになった時代に、わざわざ紙の本を作るのは手間がかかりすぎる。
でも、手に取れるものとして残すことは尊いことだ。はたから見たら、やらなくてもいいかもしれないことに時間と労力をかけて向き合ったもの。その人それぞれの個性がどうしたって滲み出る。
そういうモノに出合えると、趣味の合う友達を見つけたかのような温かな気持ちになれるし、自分もまた作ってみようかな、と心が動く。
読んでくれた人の感想というのは、作り手には届きにくいけれど、それでも自分の見えないところで誰かの心には届いてる、とわたしは思っている。
中野〈タコシェ〉で出合った本
ここからは、その日にタコシェで買ったものを紹介します。
『カプセルタワー滞在記』は、中銀カプセルタワーに住んでみた人の体験レポート。
外側がつやつやした紙のポスターになっていて、中にザラザラの紙の冊子が挟まれている凝った装丁もおもしろい。
住んだ人しか感じられないであろう住み心地や、見学ではきっと見られない景色(朝ハトが止まりに来るとか)、細部にわたる建物のデザイン観察が書かれています。
手描きのイラストとテキストがグラフィカルでかっこいい!いいもの見つけた!って嬉しくなりました。
『煙草の美味しい喫茶店2』も、デザインがかわいくて即買いしたもの。
タバコ吸わないけれど、喫茶店が好きだし、そもそもこのイラストのタッチが素敵で惹かれました。「混雑具合・煙レベル・おねだん」が3段階表記されているのと、紹介する喫茶店のイラストが絵本タッチでかわいいんです。
次は『murren』。
若菜晃子さんの『murren ミューレン』のデッドストックを見つけた……!2015年に出たものだそう。
次からは、タコシェさんで散歩系でおすすめの本を聞いて買ったもの。
『パリのガイドブックで東京を闊歩する2 読めないガイドブック』は、前のシリーズから気になっていたので、手を出してみました。
パリのガイドブックで、東京を歩く……? 理解がまるで追いつかなくて、とりあえず読んでみようと手に取ったが最後。あっという間に引き込まれて読み終わりました。
とりあえずパリのガイドブックを買いあさり、読んだり読まなかったりしてるうちに時が過ぎ、実際の時事問題と急にリンクしたり。
「結局のところ、闊歩できたの?」って、それは本を読んでみて。
友田とんさん、宮田珠己さんの作品に出合った時のような喜びがあるな〜。
最後は『イモヅル』。
「サツマイモ、という切り口で作られている方がいて……」と紹介していただいたときの衝撃よ。
この号では、江戸時代に起きた飢饉や疫病とサツマイモの年表や、どんな風に人の命を救ってきたかが書かれています。テキストが面白くてわかりやすい!さつまいもにさほど興味がないにも関わらず、するすると引き込まれました。
純度の高い作品で人と人をつなぐ場所
〈タコシェ〉は自主制作の作品をはじめ、新刊本やグッズなど様々なものが置かれています。
本棚にはジャンルごとにZINEがずらりと並んでいて、そこから自分で宝探しのように見つけるのもおもしろいのですが、店主さんの作品に対する愛がすごいなって。
今回は散歩がテーマの本でおすすめを聞いたのですが、作品の紹介が細やかで丁寧なんです。
今回だけじゃなく、前回も買い物したときに色々聞いたら詳しく教えてくださって、その記憶力に脱帽しました。
「こういうので、おすすめありますか?」という質問を投げかけるのは、答える相手の負担が大きいな〜と思っているのであまりしないのですが、最近では好きな本屋さんで聞くようにしています。自分で探すのも面白いけど、数多の作品に触れている店主さんのイチオシというのも魅力的だなと。
あ!そうだ!『かもめと街歩きZINE』も置いていただいているので、未読の方はぜひ!
中野ブロードウェイ〈タコシェ〉店舗情報
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