「いなくなるって消えることじゃないんです。いなくなるって、いないことがずっと続くことです。いなくなる前よりずっと側にいるんです」
〈カルテット〉というドラマで、夫が失踪したままの妻が口にした言葉がいまだに忘れられない。
目の前からいなくなった存在だからこそ、鮮烈に思い浮かび上がることがある。
スカートの音楽を聴くと、ときに胸がぎゅっと苦しくなる。
過ぎ去ったあの人のことや、出来事のいろいろが、鮮やかな色を連れてきて、目の前に立ちはだかる。
ふらっと散歩へ来たコーヒーショップで、アイスカフェラテを飲みながら、こぼれそうになった涙を抑えた。
大人になると、こんな風に急に涙腺が崩壊しそうになるのが恐ろしい。
いまにも雨が降り出しそうな、重たい梅雨空の中、井の頭自然文化園へ行った。
放し飼いにされているリス園へ行きたかっただけで、他にどんな動物がいたかもほとんど忘れていた。
目の前に見えたのは、ガランとした灰色のゾウ舎。
そういえば、この施設のアイドルだったゾウのニュースを聞いたのはもう数年前のことだった。
ゾウがいた場所には、好きだったおもちゃや、おやつが置かれていた。
「そこにいない」からこその、存在感。
せわしない日常の中で、終わったように思い込んでいた感情を、いとも簡単に連れてくるスカート。こんな曲を聴いたら、またしばらく忘れられないじゃないか。
中央線は、スカートの音楽がよく似合う。
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