大切な人が突然亡くなった。
今から3年前の初夏のこと。
何もできなかったからこそ、後悔だけが残った。
この本に出てくる子のような妖精は出てこなかったけれど、まわりの温もりを励みに、なんとか毎日のふつうの暮らしを守ったりした。
そして、ボタンの掛け違えで、
その人とすれ違ったままになっている人へ、
大切な人がふと呟いていたひとことを届けたりもした。
ただ、会いに行けばよかったのだ。
「いそがしいし、相手もいそがしそうだから、
落ち着いたら誘おう」。
機会を逃して、一生後悔することになるとは思わなかった。
その大切な人は、大学のバンドサークルの先輩だった。
風が吹いたら倒れそうなくらい細くて、
くしゃくしゃぎみのチェックのシャツにチノパン姿で、
いつも目を伏し目がちにしてる、寡黙な人だった。
音楽の趣味が近いことで、すぐに好きになり、
即ふられた。
だけど、なにもなかったかのように仲良くしてくれた。
しょっちゅう一緒にバンドを組んだり、
仲の良い女の先輩と3人で吉祥寺で遊んだり、
そのまま家でギターを弾いてもらいながら、
朝までぼんやり話したり。
話した、と言っても、ほぼ沈黙スタイルなので、
5分くらい無言のことも、いつものことだった。
「けっこう一緒にいるけど、ほんとに何を考えてるかわからない…!」
と、心では思いつつも、
人柄に惹かれていたのは事実だった。
わたしの好きそうな音楽や映画をたくさん教えてくれて、外でライブをする時はいつも見に来てくれた。
ふだんの会話はものすごく少ないけど、
ほんとうに大事な時は、優しく厳しく助けてくれた。
結婚式の二次会にも来てくれて、
ぼそっと「おめでとう」って言ってくれた。
(もちろん無表情で)
人生で出会った人のうち、
あんなに寡黙でなにを考えてるかわからないけど、
みんなに好かれてた人っていうのも、そうそういない。
「いなくなるってことは、いない状態がずっと続くってことなんです」
最近観たドラマの台詞を思い出した。
「いない状態」をぎゅっと心のどこかで思い続けながら、わたしらしく、元気に愉しく生きていく姿を見せたいな、と日々思っている。
この本に描かれた7人の話は、
人生のどこかで一緒に過ごした人のことを、
ふと思い出させてくれた。